住宅ローンの事前審査は、気に入った物件を押さえる直前に出てきます。ここで否決されると、申込みそのものが白紙に戻ることもあります。私が売買の現場で見ている限り、落ちる理由はいくつかのパターンに集約されます。
この記事では、宅建士として実際に見てきた否決のパターンと、申し込む前にできる備えを整理します。なお、審査基準は金融機関ごとに異なり、公表されていない部分もあります。ここに書くのは公表されている基準と、実務での傾向です。最終的な可否は金融機関の判断になります。
事前審査で実際に見られていること
「収入が足りない」で片づけられがちですが、実務では次の5つが独立して効いてきます。1つでも引っかかると、ほかが良くても止まります。
1. 返済負担率(年収に対する年間返済額の割合)
公表されている基準として分かりやすいのが【フラット35】です。すべての借入れの年間合計返済額が年収に占める割合について、年収400万円未満は30%以下、400万円以上は35%以下と定められています。民間の金融機関も同じ考え方をしますが、基準そのものは公表していないところがほとんどです。
ここで見落とされやすいのが、合算されるのは住宅ローンだけではないという点です。マイカーローン、カードローン、奨学金、スマートフォン本体の分割払いまで含めて計算されます。「毎月の支払いは少額だから」と思っていたものが、借入残高としては大きく効いていることがあります。
2. 完済時の年齢
【フラット35】の借入期間の上限は、「80歳から申込時の年齢を引いた年数」と35年のうち、短いほうです。申込時の年齢は満70歳未満とされています。
つまり、「返済期間を延ばせば毎月の返済額が下がるから審査に通りやすい」とは限りません。年齢によっては期間そのものを延ばせないためです。40代後半以降の方が「期間を延ばして負担率を下げる」という調整をしようとして、そもそも使えないケースは実際にあります。
3. 信用情報
過去の延滞履歴と、現在の借入状況が見られます。延滞が一定期間続くと、いわゆる「異動」として登録され、その後しばらく残ります。登録の基準や保有期間は信用情報機関や契約内容によって異なるため、心当たりがある方はご自身で開示請求をして確認するのが確実です。CIC・JICC・全国銀行個人信用情報センター(KSC)の3機関があり、いずれも本人が開示を請求できます。
あわせて、カードローンは「借りていなくても、枠があること自体」がマイナスに見られることがあります。使っていない枠は、申し込み前に解約しておくのが無難です。
4. 勤続年数と雇用形態
勤続年数が短いと不利に働きます。ここで注意したいのが、「審査に通りやすくするために転職する」は逆効果になりやすいことです。転職すると勤続年数がリセットされるためです。転職を予定しているなら、住宅の購入と時期をずらすか、順番を決めておいてください。
5. 物件の担保評価
ここが宅建士としていちばんお伝えしたい点です。申込者の属性に問題がなくても、物件側の理由で融資が付かないことがあります。
- 建築基準法の接道義務を満たしておらず、再建築ができない物件
- 借地権付きの物件(地主の承諾が必要になる)
- 建築確認と現況が違う、増築部分が未登記といった物件
- 法定の建ぺい率・容積率を超えている物件
これらは購入を決める前に分かることです。売主側の資料と現地で確認できるので、契約を急ぐ前に不動産会社へ確認してください。
実務でよく見る否決のパターン
| パターン | 実際に起きていること | 先にできること |
|---|---|---|
| 他の借入の見落とし | 車のローンやスマホの分割が残っており、返済負担率が基準を超えていた | 申込み前に、借入をすべて書き出して合計する |
| カードローンの枠 | 残高ゼロでも、契約枠があること自体が評価に影響した | 使っていない枠は解約しておく |
| 過去の延滞 | 本人が忘れていた携帯電話の分割払いの延滞が残っていた | 信用情報を自分で開示して確認する |
| 転職直後 | 条件の良い会社に移った直後で、勤続年数が足りなかった | 転職と購入の時期をずらす |
| 完済時年齢 | 希望の借入期間が、年齢の上限で取れなかった | 借入額か頭金で調整する前提で資金計画を立てる |
| 物件の担保評価 | 再建築不可・借地・違法建築などで、そもそも融資対象外だった | 申込みの前に物件の条件を確認する |
申し込む前にできる備え
- 借入をすべて書き出す。住宅ローン以外に、車・カード・奨学金・スマホの分割・リボ払いまで。年間の返済総額を出して、年収に対する割合を計算しておきます
- 信用情報を自分で開示する。CIC・JICC・KSCの3機関。心当たりがなくても、身に覚えのない登録が残っていることがあります
- 使っていないカードローンの枠を解約する。解約は反映までに時間がかかることがあるので、早めに
- 転職の予定があるなら順番を決める。購入が先か転職が先かで、取れる選択肢が変わります
- 物件側の条件を先に確認する。接道・借地・建築確認・増築の有無。ここは不動産会社に聞けば分かります
- やみくもに複数申し込まない。申込みの記録も信用情報に残ります。条件を整えてから出すほうが結果的に早いことが多いです
なお、副業を始めて収入を増やすという対策を見かけますが、副業収入は審査上の収入として算入されないことが多く、算入される場合でも継続性の要件が付くのが一般的です。短期間で効果が出る対策とは考えないほうが安全です。
札幌で購入される方へ
札幌の中古住宅では、築年数の古い物件で「増築部分が未登記」「車庫や物置が確認申請なしで建っている」といったケースに出会うことがあります。住むぶんには支障がなくても、融資の場面で問題になります。
また、冬季は現地調査や測量が雪で進まないことがあり、審査から引渡しまでの日程に余裕が要ります。年度末の引渡しを希望される場合は、逆算して早めに動いてください。
よくある質問
Q. 事前審査で落ちた場合、再度申し込むことはできますか?
A. できます。ただし、金融機関は否決の理由を教えないのが原則です。理由が分からないまま別の金融機関へ出し直しても、同じ結果になることがあります。まずは借入状況と信用情報を自分で確認し、心当たりを潰してから再申込みするほうが確実です。申込みの記録自体も信用情報に残るため、短期間に何件も出すのは避けてください。
Q. 事前審査の結果はいつまで有効ですか?
A. 有効期間は金融機関ごとに定められており、一律ではありません。期間内であっても、収入・勤務先・借入状況が変わった場合は、改めて審査を受けることになります。物件が決まるまで時間がかかりそうなときは、申込先に有効期間を確認しておいてください。
Q. 落ちた場合、条件を変更すれば通りますか?
A. 借入額を下げる、頭金を増やす、収入合算やペアローンを検討する、といった調整で結果が変わることはあります。ただし「返済期間を延ばす」は、完済時年齢の上限に当たると使えません。年齢によっては選べない調整であることを、先に確認しておいてください。
Q. 物件が理由で落ちることはありますか?
A. あります。再建築不可、借地権、違法建築、増築部分の未登記などは、申込者の属性と関係なく融資の対象外になることがあります。これは購入を決める前に確認できる項目です。気になる物件があれば、契約を急ぐ前に不動産会社へ確認してください。
まとめ
- 見られているのは収入だけではない。返済負担率・完済時年齢・信用情報・勤続年数・物件の担保評価の5つが独立して効く
- 返済負担率には車・カード・奨学金・スマホの分割まで合算される。申込み前に全部書き出す
- 「期間を延ばして毎月を下げる」は年齢の上限で使えないことがある。【フラット35】の期間上限は「80歳−申込時年齢」と35年の短いほう
- 信用情報は自分で開示して確認できる。使っていないカードローンの枠は先に解約しておく
- 転職は勤続年数がリセットされる。審査対策としての転職は逆効果になりやすい
- 物件側の理由で落ちることがある。再建築不可・借地・違法建築は購入前に確認できる
審査基準は金融機関ごとに異なり、公表されていない部分もあります。ここに書いたのは公表されている基準と実務での傾向で、可否の判断は金融機関が行います。個別の審査については金融機関に、物件の条件については宅地建物取引士のいる不動産会社に、それぞれ直接ご確認ください。
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